日本での五大昔話の一つとして、人気が高く、日本人のメンタリティに大きな影響を与えてきた「桃太郞」。
とりわけ、1924年(大正13年)に芥川龍之介が独自の視点・哲学的な観点から再構築し書かれた短編小説「桃太郎」では、桃太郎は勇敢で正義の英雄のイメージからは程遠く、反対に鬼は平和主義で人間を恐ろしい生き物と捉え、単純で痛快な「鬼退治」では終わらない読後感が味わえます。
本作では、そんな人々のイメージを壊す芥川龍之介の視点に着目し、芥川版「桃太郎」をベースに、物語が展開されます。
むかしむかし、どこかの国の深い山の奥に、
地下から天上まで伸びる大きな木があった。
その木は、一万年に一度花を開き、一万年に一度実をつけた。
運命の化身のカラスが、そのうちの一つを落とし、それを人間の老婆が拾った。
そして、その実から、なんと男の子が生まれたのである!
その男の子こそがピーチ!
ピーチは大きくなると、鬼が島の征伐を思い立った。
特に征伐に出る理由はなく、ただお爺さんやお婆さんのように、
山や川や畑へ仕事に出るのがいやだったからであった。
鬼征伐の旅の途中、犬のボヌッチがきび団子を1つ欲しいと言ってやって来るが、
ピーチは「半分しかやれない」と言い張って、ついに根負けしたボヌッチをお供にした。
さらに、猿のモンチ、雉(キジ)のフェザンチも同様にお供に加え、
ピーチは鬼たちが平和に暮らす鬼ヶ島へ向かうのであった──。